サンフラから北へ450キロ

カリフォルニア州ハンボルト郡の情報

差別を覚悟する旅の緊張

大阪日日新聞の連載にてハンボルトのことを触れた記事があったので紹介します。書いたのは近畿大学の金井啓子教授。以下、全文引用します。タイトルは「差別を覚悟する旅の緊張」です。

新型肺炎で広がるアジア系攻撃

 日本よりカリフォルニア州の方が大きいと聞いてはいたが、それを実感する機会にようやく恵まれた。州の「北部」にあるサンフランシスコから北東の郊外まで列車で1時間。そこからバスで北へ6時間。今回の訪問先のハンボルト州立大学があるアルケータにやっと着いた。

 家畜が放牧されている丘から、ブドウ畑が続く風景に変わり、巨大なレッドウッドが密集する森に入り、最後は大きな湾に沿って走るという変化に、旅の長さを忘れた。一方で、ハンボルト郡は同州での合法化より前からマリフアナ生産地として知る人ぞ知る存在だったことも知った。

 ただ、実は、この旅を中止すべきか直前まで迷ったのだ。新型肺炎感染の拡大が理由だった。と言っても、米国内の感染者はまだ比較的少ないため、感染が主な懸念材料ではない。むしろ、米国内でアジア系への差別や攻撃が起きていると聞いたことが原因である。多様な人種が住むサンフランシスコから、白人が多い地域に入ってアジア系の私が目立つことが不安だった。

 そこで、さまざまな知り合いに相談した。ハンボルト郡そしてアルケータはリベラルな雰囲気で多様性を受け入れる背景があることを知った。アルケータに住む人たちからは、差別的な出来事が街で起きたとは聞いていないという返答が来た。サンフランシスコ周辺、東海岸に住む知り合いにも聞いたが、「何も起きないとは言い切れない」と留保をつけつつも、「旅行をやめた方がいい」とは誰も言わなかったのが印象的だった。ある人は「町の大小にかかわらず人種差別が起こるのがこの国で暮らす大変さだと思う」と語った。各種の差別と絶えず戦い続ける米国に住む人たちだからこそ、何かが自分に起こる覚悟は絶えずしつつも、それを恐れて自分の行動を制限したりはしないという意志の強さを見た気がした。

 ただ、私がひとりで長距離バスに乗ることに反対する人が何人かいた。州の中に保守的な人々が住む地域がある上、長いバス旅ではさまざまな人が乗り降りするため、どんな人に遭遇するかわからないというのが理由だった。だが、一方で「いやな目にあっても、周りの人がきっと止めてくれると思う」と言った上で、「いやがらせの言葉を言われたって、あなたは年季の入ったジャーナリストなんだから」と冗談交じりに話した人もいた。

 迷ったあげく予定通り出発したが、私の顔を見て目をそらしたりにらみつける人はいないかと意識したために緊張して疲れた。だが、嫌な思いをするどころか、車内でもアルケータ到着後も一切不快な場面はなく、目が合えばほほ笑む人もいるほどだった。

 ただし、今回の経験をもとにすべてを楽観的にとらえるつもりはない。差別に遭うかも知れないという恐怖は私の中にしっかりと残っているし、実際に差別を受けた人たちが無数にいるからだ。

 (近畿大学総合社会学部教授)

差別を覚悟する旅の緊張 [金井啓子の現代進行形] - 大阪日日新聞

サンフランシスコからハンボルトへの移動手段は、飛行機、車、長距離バスのどれかだけだと思っていたので列車と長距離バスという交通手段は知らなかった。書かれている内容から推測すると、サンフランシスコからバート(Bart)という高速鉄道に乗ってマーティネズ(Martinez)駅に向かい、そこからAmtrakの連絡バスでアルケータに向かったと思われる。サンフランシスコからはグレイハウンドバスという長距離バスがアルケータに行きますが、たぶん出発時間の関係でAmtrakを選んだと思います(両バスともに日に1~数本の運行)。今回少し調べたところによると、現在グレイハウンドバスは座席のグレードが3種類あり、以前あった低所得者層用の移動手段というイメージとは少し変った模様。バスの出発点が違うだけで、通る道路はほぼ同じです。Amtrakは利用したことがないので使ってみたいですね。